大動脈弁狭窄症の身体診察と看護 JCS2019学習報告

第83回日本循環器学会学術集会に参加してきました。

 

講演を聞いて、刺激になった、勉強になった内容を、まとめて書きたいと思います。

 

新しい知識は楽しいですね。

5つ目の報告です。

今回はいくつかのセミナーでトピックスになっていた、「大動脈弁狭窄症(AS)」についてまとめました。

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大動脈弁狭窄症(AS)の身体診察

「達人から学ぶ心臓診察の極意」というフィジカルイグザミネーションのセッションから、大動脈弁狭窄症の診察についてまとめます。

 

大動脈弁狭窄症は、「AS」と現場で言われています。

*AS:Aortic valve stenosis

 

大動脈弁狭窄症の身体診察は、循環器のフィジカルイグザミネーションで最も重要な診察の1つと言われています。

理由としては、


  1. 最もリスクの高い弁膜症である
  2. 高齢心不全患者に増えてきている
  3. 心音の聴診で最も分かりやすい「駆出性収縮期雑音」の聴取で判断できる
  4. 頚動脈の触診でも判断できる

などの理由からです。

 

以下にそれぞれまとめますが、

「最も恐ろしい弁疾患で、患者の割合も多く、しかも身体診察で診察できる疾患」なのです。

身体診察で見逃せない疾患ということですね。

最もリスクの高い弁膜症

弁疾患には、三尖弁狭窄症、僧帽弁狭窄症などの狭窄症と、僧帽弁閉鎖不全症などの閉鎖不全症が、それぞれの弁で考えられます。

その中でも最も気をつけなければいけないのが、大動脈弁狭窄症と言われています。

 

理由としては、容易に心不全(左心不全)の状態に陥りやすいことと、突然死になり得るからです。

 

全身に血液を送り出さないといけない左室の出口が狭いわけですので、大動脈弁狭窄症があると左室にものすごい高圧がかかります。

そうすると、左室もいっぱいいっぱいになって心不全となります。

それだけであればまだいいのですが、急激な左室のストレスが不整脈を誘発して突然死につながると言われています。

 

左室にかかっている圧は身体診察からは予測できません。

血圧を測定しても、実際の左室の負荷はわかりません。

ですので、大動脈弁狭窄症があることを理解して、左室に負担がかかっていることを想像するしかないのです。

 

心臓リハビリテーションのガイドラインでは運動が禁忌の疾患に、大動脈弁狭窄症(中等症〜重症)が入っています。

つまり、大動脈弁狭窄症はモニタリングしていても運動がリスクになる疾患なのです。

高齢心不全患者に増えている

弁膜症による心不全患者は年々増加してきているとのことです。

昔はリウマチ熱から罹患してしまう「僧帽弁狭窄症」も多かったようですが、リウマチ熱が減ったことで減少しています。

しかし、高齢者に多く、加齢とともに悪化していく大動脈弁狭窄症は増加の一途をたどり、そのため弁膜症の心不全が増加しているとのことです。

 

リスクが高く、とても注意が必要なのに、高齢者に多い疾患なんですよね。

ちなみに、私が今働いている病院でもとても多くみられます。

しかも80歳を超えるような心不全患者さんに多いです。

そして保存療法が多いですので、リスクを抱えたまま退院せざるを得ない状態です。

 

もちろん大動脈弁狭窄症の患者さんは、心不全の再入院も多いです。

駆出性収縮期雑音

大動脈弁狭窄症の診察で最も重要なのが心音の聴取と言われています。

Ⅰ音とⅡ音の間に聞かれ、低音成分と高音成分が混在した荒々しいharshと形容される駆出性収縮期雑音が聴取されます。

この雑音は疾患特異性が高く、この雑音を聞いただけで大動脈弁狭窄症と診断できるほどと言われています。

 

一般には大動脈弁狭窄症が重症になると、雑音の音量は増すと言われています。

*かなり重症になり、心拍出量が低下すると、雑音の音量は小さくなるようなので注意が必要です。

 

<右鎖骨上での雑音聴取>

右鎖骨の上に直接聴診器を置くと、雑音が明瞭に聴取されます。

骨は音をよく伝導するので、COPDや肥満で胸壁上で雑音が聴取できない場合は、右鎖骨が雑音の最強点になることも多いようです。

頚動脈の触診

大動脈弁の身体診察では、聴診だけでなく、頚動脈の触診も必須と言われています。

大動脈弁狭窄症では、頚動脈の立ち上がりが遅く(遅脈)、振幅も小さくなります(小脈)。

*かならず遅脈があるわけではないので、遅脈がなくても大動脈弁狭窄症の可能性もあります。

高齢者で、頚動脈拍動を触れる場所を探すのに苦労すると感じたら、大動脈弁狭窄症を疑ったほうがいいそうです。

 

頚動脈でshudderと言われる特徴的な鋸歯状の細かい振動を触知することがあり、これも大動脈弁狭窄症に特徴的だそうです。

 

これらの身体診察を行って大動脈弁狭窄症を疑ったら、心エコー検査が必須と言われています。

心エコーにより、大動脈弁狭窄症の定量的評価が行い、重症度の確定、手術適応の有無なども判断できます。

看護の現場で気をつけること

本当に多く、増えてきている印象があるのが、大動脈弁狭窄症をもって入院してくる高齢心不全患者です。

大動脈弁置換術やTAVIの適応になり、治療できればいいですが、根治をせずに心不全の急性期治療を行って退院する患者さんも多いです。

むしろ一般的な高齢者はこちらのほうが多いと思います。

 

急性期を脱しても、大動脈弁狭窄症があるということは容易に心不全再発や突然死のリスクがありますので、心不全管理は注意が必要です。

 

具体的には、


過度な負担がかかる作業はしない(必要であれば動けたとしても、行動制限をする)

怒責をかけない(急激な左室への圧増加になり、不整脈誘発になります)

一般的な心不全管理の徹底(塩分制限や体重管理など)


動けそうだからどんどん動いてもらっていい疾患でないのが、大動脈弁狭窄症ですので、退院時などには注意が必要です。

しかし、超高齢者など、自分の生活が確立している方に、本人が意欲あるのに行動制限をすることも迷うことがあります。

その際は医師や家族、本人と病気のリスクを共有しながら、病気と向き合っていく判断が必要だと思います。

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まとめ

  • 大動脈弁狭窄症は高齢心不全患者に増加していて、リスクの高い疾患です。
  • 大動脈弁狭窄症は心音と頚動脈の触診で診察しやすい疾患です。
  • 心不全急性期だけでなく、在宅での心不全管理も注意が必要です。

 

心音の聴取は難しいですが、確かに大動脈弁狭窄症の異常雑音は容易に聴取できます。

身体診察から見えてくることも多いので、より注意して大動脈弁狭窄症の看護にあたる必要がありますね。

簡単ですが、学会報告としてまとめてみました。