ショック患者をみるときに必須の検査といっていい項目に「乳酸(ラクテート)」があります。
ただ、乳酸は重症患者以外では測定することの少ない検査です。
(私もICUで働くまではみていなかったです。というか、検査されていなかったです)
検査値はいろいろありあすぎて、いまいちわかりにくいですよね・・・
けど、乳酸値は理解しているとわかりやすいですし、重症患者にはとても重要な数値です。
そんなことから、今回はショックで乳酸値をみる理由と、乳酸が変動する理由をまとめてみました。
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ショックで乳酸値をみる理由
ショックをみるときに乳酸値が重要な理由は単純です・・・
- 低灌流状態を反映して上昇する数値
- 乳酸値の上昇は死亡率と相関する
からです。
単純ですよね。
ショックと低灌流については、以下のサイトでも触れていますので参考にしてください。
正常値は
成人一般:1〜1.5mmol/L程度(書籍によって誤差はありますが、だいたいです)
異常所見、注意するべき値は
になります。
敗血症患者の乳酸値が2mmol/L以上、あるいは上昇傾向にある場合には、死亡率が高くなることが示されています。
→予後を示す感度の高い指標なのです。
<乳酸の論文です>
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3975915/
乳酸は動脈血で測定しても、静脈血で測定しても同様に使用できます。
*補足ですが、乳酸はショック以外でも上昇します。
全身痙攣や喘息がその代表です。そのような場合は、乳酸値の上昇=ショックとはなりません。
敗血症にはわかりやすい指標ですが、全身状態を踏まえてみる必要があります。
なぜショックで乳酸値が上昇するか?
ショック、つまり低灌流で乳酸が上昇する機序をまとめました。
この機序を理解するには、糖代謝について理解する必要があります。
(生理学ですので私のように苦手な方もいるかもしれませんが・・・、わかりやすくしてみました)
糖代謝と乳酸
体を動かすエネルギー源はATP(adenosine triphosphate:アデノシン三リン酸)になります。
細胞は、グルコースと酸素からATPを産生します。
グルコース(C6H12O6)と酸素を合わせると、様々な過程を経て、二酸化炭素(CO2)と水(H20)になります。
同時にATPが産生されます。
化学式で示すと・・・
C6H12O6+6O2→6CO2+6H20(+38ATP)
このようにグルコースに酸素を合わせてエネルギーを得ることを糖代謝といいます。
この38ATPを得るための糖代謝は、大きく2つに分けられます。
酸素を必要としない解糖系と、酸素を必要とするクエン酸回路(TCA回路)です。
解糖系は+2ATPですが、クエン酸回路は+36ATPととても能率よくエネルギーを産生できます。
(酸素を使ったほうがエネルギーを得るには能率がいいというわけです)
少し複雑になってきたので、以下に図を示してみました。
図で乳酸がでてきたと思います。
乳酸は解糖系でエネルギーを産生したときに、ピルビン酸からでる副産物みたいなものなのです。
酸素供給と乳酸
上の図を意識してもらいたいのですが、ミトコンドリアでのクエン酸回路では酸素が必要でした。
酸素が取り込めない場合、もしくは酸素の供給が追いつかない場合(ダッシュなどの無酸素運動です)は解糖系でエネルギーをつくらないといけません。
何らかの原因で能率の良いクエン酸回路でエネルギーを産生できずに、解糖系で頑張ってエネルギーを作っていると乳酸が増えると思えばいいです。
敗血症などのショック状態で、低灌流により酸素の供給が足りないと、無酸素運動のように解糖系でエネルギーを作られるので、乳酸が高くなります。
→乳酸はショックにおける酸素供給不足の間接的指標なのです(簡単にまとめてしまうと)
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まとめ
- ショックとは低灌流により酸素供給と酸素需要のバランスが崩れた状態です。
- 酸素が足りないとエネルギーをつくるために解糖系が頑張るので、間接的に乳酸が増えてきます。
- 乳酸は低灌流で上昇し、死亡率(敗血症)と相関します。
乳酸の詳しい生理学を調べると、こんなに簡単ではありません。
しかし、簡単にイメージすると日々の看護などでも抵抗なく理解できると思います。
敗血症患者はとくに乳酸値が重要になってきます。患者さんが良くなっているのか、悪くなっているのかで、離床などの判断にもなります。
血圧などのバイタルサインだけでなく、乳酸値からも全身状態を把握できます。
とても臨床で有効活用できる指標ですので、まとめてみました。