研究は臨床的疑問(クリニカルクエスチョン)から始まります。
疑問をもとに、明らかにしたいことを求めるために研究のデザインを作成します。
研究デザインにはいくつかの種類があり、それぞれ研究の方法には違いがあります。
研究を考えるうえで、自分が行いたい研究がどれに該当するかを知っておくことで、研究を進めることができます。
しかし、意外に研究の手法は多いので、どれを扱ったらいいかわからなくなります。
(研究のデザインは想像して行うものではなく、既存のタイプにあてはめていきます。)
今回はそんな研究デザインについて簡単にまとめました。
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目次
研究デザインの種類
研究デザインは様々な書籍で説明されていますが、以下のように簡潔にまとめることができます。
症例研究・症例報告
症例研究や症例報告はある1つの症例に対して検証していく研究です。
新人でも、どの施設でも行える研究ですので、学会発表でも多くみかけます。
症例をまとめることで、研究者自身の知識・技術の向上や気づきを得るために行うこともあります。
例えば、症例の難渋した点、工夫した点などをテーマとして、実際の経過のなかで実際に行ったことを記述して、考察を行います。
1つの症例に対しての研究であるため、研究のエビデンスレベルとしては低くみられてしまいます。
しかし、希少な症例や貴重な体験を行えた場合は、研究者の知識の整理だけでなく、世の中に伝えるためにも重要な研究の1つです。
大規模な臨床経験も症例研究から始まることはありますので、症例研究でしっかりまとめて、次に繋げることも重要になってきます。
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シングルケース法
主に1症例を連続的に分析していく研究です。
1つの症例に何らかの実験的介入を行い、その前後の行動変化に基づいて、介入の有効性を確認する研究法になります。
後述するRCTを行うわけではないので、設備面や費用面でも比較的簡便に行えます。
客観的な治療効果の評価を可能とするため、日常の臨床場面での応用も可能です。
しかし、これも1つの症例であるため、エビデンスレベルとしては低くみられてしまいます。
新規性のある治療法を行った治療効果の報告などで使用されます。
シングルケース法は、実験デザインによって主に以下の方法があげられます。
AB型デザイン
新しい治療を加えないベースライン期(A)と新しい治療を加えた介入期(B)に分け、AとBのアウトカムを比較します。
注意点としては、Bで治療効果があったとしても、自然治癒などによるアウトカムの向上の可能性を否定できないため、論理的に治療効果を立証できない欠点があります。
ABA型デザイン
AB型デザインの欠点を改善するために、以下の図のようにBの後に再度第二のベースラインを設けたデザインです。
これがシングルケース法の最も一般的なデザインと言われています。
Bで治療効果があったあとに、再度Aで治療効果が消失した場合、Bの治療効果が自然治癒ではなかったと判断できる方法です。
Alternative Treatment Design
ABA型の複数の治療をランダムに急速に繰り返し変更する方法です。
2種類の治療方法の即時効果を比較するのに適している方法とされています。
多層ベースライン法
基本的にはAB型デザインに基づくが複数の患者、複数の状況、複数の行動などを対象に実験条件への導入時期をずらしている点が違っています。
観察的研究
能動的な介入(治療行為など)を伴わず、その場に起きていることや起きたこと、これから起きることを観察する研究です。
以下のように、横断研究と縦断研究に分けられます。
横断研究
横断研究はある一時点で調査する研究です。
母集団から標本を集めて、その集団内での評価など相互関係を示す研究になります。
比較的短時間で行える研究であるため、学会発表でも多くみかける研究デザインのひとつです。
欠点としてバイアスの影響を受けやすく、原因と結果の因果関係が明確ではないという点があげられます。
縦断研究
横断研究とは違い、時間要因によって分類する研究になります。
過去にさかのぼって、または将来にわたって、ある程度の期間を経たデータをとる研究になります。
過去の事象について調査する研究を「後ろ向き研究」といいます。
研究を立案、開始してから新たに生じる事象について調査する研究を「前向き研究」といいます。
後ろ向き(症例対照研究)
ある群に対して後ろ向きにカルテなどから調査し、因果関係などを分析する研究です。
以下にイメージ図を示します。
前向き(コホート研究)
研究対象の群(コホート)をある一定期間にわたって観察する研究です。
アウトカム(発病や筋力低下など)の発生率を観察できるため、因果関係を分析できます。
以下にイメージを図にします。
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調査研究
アンケートなどを郵送・電話などによって回答を得て、得られたデータの処理・分析を行う研究です。
大規模に実施できる反面、回答が対象者の感覚に基づくものであるため、質は低下するといわれています。
介入(実験)研究
介入研究は、介入・治療の効果を検証する研究デザインで、基本的には前向き研究になります。
介入研究には以下のような種類があります。
ランダム化比較試験:RCT
ランダム化比較試験(randomized controlled trial:RCT)とは、想定される母集団から無作為に抽出された標本を、無作為に介入群とコントロール群(なにもしない群)に割付け、新しい治療法(介入)の効果の有無(アウトカム)を統計学的解析によって比較することで判定しうる研究デザインです。
ランダム化には、乱数表を用いて厳密に行います。
準ランダム化比較試験
カルテ番号やくじ引きなどを用いて、ランダム化に準じた割付けを行う比較試験です。
クロスオーバー比較試験
対象を介入群、コントロール群の2群にわけて介入を行ったあと、いったん介入を中止します。
その後、介入の有無を交換して再度経過を追跡して比較する研究方法です。
症例数が少なくても行えるメリットがあります。
以下のようなイメージです。
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メタアナリシス、システマティックレビュー
メタアナリシスとは、「複数の臨床研究のデータを単純に平均するのではなく、データのばらつきの度合いで重みづけしてからデータを統合する統計学的手法」と定義されています。
システマティックレビューは、「明確に定式化された疑問について、関連する研究の特定・選択・批判的吟味、および採用研究からのデータを集めて解析する、系統的で明確な方法を用いるレビュー」と定義されています。
システマティックレビューとメタアナリシスは混同されやすいので、関係図を以下に示します。
最も質の高い研究は、再現性のなる方法で恣意的でない結論を得るために、システマティックレビューによって収集された研究論文に記載されたデータを集めて統合(メタアナリシス)することが必要になります。
質的研究
これまでの介入に伴い、その効果を判定する研究を主に量的研究というのに対して、個別事例に対して観察された現象を記述、抽出して分析する研究を質的研究といいます。
観察やインタビューから得られたデータから本質を見いだすことを目的とします。
量的研究では結果を重要視して研究計画を立てますが、質的研究では結果よりも結果に至る過程(プロセス)や影響を与える要因や環境を探求することに重きをおきます。
質的研究では量的研究では明らかにしづらい結果に至るプロセスや影響を与える因子を推論するといった意義がありますが、科学的な再現性を担保しづらいといった難しさがあります。
まとめ
- 研究デザインには様々な種類があり、それぞれ定式があります。
- 自分が行いたい研究がどのデザインにあてはまるのか、読んでいる論文がどのデザインなのかを把握することは、研究の質を理解するうえでも重要です。
今回は研究デザインについて、簡潔にまとめてみました。
研究のイメージをつけて、より吟味していく必要がありますが、導入として参考になれば幸いです。
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