(2020年4月28日執筆)
2020年4月28日現在、COVID-19(コロナウイルス)による世界的な影響は終息せず、日本でも緊急事態宣言が発令されています。
医療崩壊が懸念されるなど、医療現場での緊張がさらに増している印象です。
そんななか、COVID-19に対する医療方針として、成人COVID-19症例に対するガイドラインが発表され、先日以下のサイトでご紹介させていただきました。
【COVID-19:論文・ガイドライン】SSS COVID-19
今回はCOVID-19関連の栄養ガイドラインがSCCM/ASPEN共同で報告されていますのでご紹介します。
COVID-19に関わる、もしくは備えている医師、栄養士、看護師など医療従事者の方にとっては非常に重要な内容であると思いますので、ご存知ない方は参考にしてください。
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目次
Nutrition Therapy in the Patient with COVID-19 Disease Requiring ICU Care
SCCM(クリティカルケア学会)とASPEN(米国経腸栄養学会)から発表された論文・ガイドラインであり、8ページ程度の短い内容になっています。
栄養療法に関する最新の知見に加え、まだ不覚的要素の多いCOVID-19に関連した治療(栄養療法)指針を示してくれています。
無料公開されていますので、以下のリンク(SCCMのサイト)から原文のPDFを取得することができます。
Nutrition Therapy in the Patient with COVID-19 Disease Requiring ICU Care
原文を持っていない方はまず見てみてください。
日本語訳:Recommendation(推奨治療)を一部抜粋
栄養療法のなかでも、COVID-19に関連したRecommendationが8つ記載されています。
一部を日本語で紹介したいと思います。
まずはGuiding Principles(原則)が示されています。
医療者への感染を防ぎなら栄養療法を行うことが最も重要である
まずは大前提として、一番問題となっている医療者への感染拡大を防ぐことが最重要とされています。
これまでの栄養療法のガイドラインにはない、COVID-19に関連する重要事項ですね。
このことを、しっかりとガイドラインで示してくれるのは、これから立ち向かう医療従事者としては安心して、参考にできる内容になっていますね。
PPE(個人防護具)が十分でないなら、栄養士は病室に入らず他のデータ・情報から栄養計画をたてる。
今世界中で問題となっているのは医療資源の枯渇です。
マスクだけでなく、医療現場で働く方はPPE(個人防護具)が不足してきていることに怯えていると思います。
本来栄養士さんは、患者さんに対面して栄養計画を立ててくれますが、COVID-19に関してはPPEが不足しているため、栄養計画のためにはPPEを装着しないで医療資源を節約することを1番目に推奨していました。
おそらく日本の病院でもガイドラインが発表される前から仕方なく実践していたことではないでしょうか。それをガイドラインに示してくれるのは、病院の悩みを肯定、尊重してくれていますね。(まずは医療者の感染拡大防止ですからね)
入室24〜36時間や気管挿管後12時間以内に経腸栄養を始めることが理想で、多少のショック状態やCOVID-19感染が早期経腸栄養の禁忌とはならない。
しかし、カテコラミン増量中や非挿管の陽圧換気患者は腸管虚血のリスクがある。
COVID-19患者が腸管虚血となると通常より救命困難となるため、腸管虚血やチューブ挿入時のエアロゾル感染の少ない早期静脈栄養を選択してもよい。
COVID-19には消化器症状がでている方もいますし、腸管虚血になった際の医療・感染リスクを考え、腸管虚血を防ぎたい方針ですね。
また、経腸栄養を行うためのチューブ挿入や抜去でのエアロゾル感染を防ぐために、静脈栄養を選択することも推奨しています。
従来では、早期から腸を使うために、経腸栄養を行うことがスタンダードでしたが、これもCOVID-19による感染リスクを最も危惧した指針になっていますね。(以下のサイトで従来の早期栄養療法について論文紹介としてまとめています)
【論文紹介】ショックを伴う人工呼吸器装着患者への早期栄養療法
従来は経鼻胃管栄養がうまくいかないときは幽門以遠へのチューブ留置を行っていましたが、COVID-19状況では不利な点が多いので勧めない。
さらにボーラス投与より下痢、嘔吐が少ない持続投与を強く勧める。
下痢、嘔吐、腹部膨満などの症状の患者にはウイルスRNA被曝のリスクを減らすためにも早期静脈栄養を考慮する。
やはり、下痢嘔吐によるエアロゾルの感染リスクを最大限考慮した内容になっていますね。
栄養療法初回の方も、これまでも行っていたかたも持続投与をしないといけないということですね。
腹臥位中は、頭側のベッドを10〜25度あげる逆Trendelenburg位で経鼻胃管栄養を投与することで誤嚥や顔面浮腫、腹腔内圧上昇リスクを減らせる
COVID-19の栄養療法ガイドラインに腹臥位療法中の栄養管理が書いてあるのは少し驚きでした。
COVID-19によりARDSのような肺の状態になれば腹臥位療法が適応になると思いますので、それを見越した内容ですね。
しかし、逆Trendelenburg位(ベッドごと傾斜して頭を高く)にできるベッドを使用している施設じゃないと実践できないですが、ベッドがあれば比較的容易に行えます。
経腸栄養で注意深く始め、量もゆっくり増やす。
静脈脂肪栄養剤が人工肺にトラップされることはない。
最後にECMO管理下の栄養療法についても記載がありました。
COVID-19で一気に日本でも注目をあびたECMOですので、今後のECMO管理技術は栄養管理だけでなく、看護管理としても上がっていきそうですね。
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まとめ
早くもCOVID-19の栄養管理に対するガイドラインを示してくれています。
さすがASPENですね。
COVID-19の治療は手探りですが、まずは医療従事者が感染しないようにすることが如何に重要であるかも、このガイドラインから読み取れると思います。
そのために経腸栄養にこだわらず、静脈栄養を推奨することがあったのがとても印象てきでした。
簡単ですがまとめてみました。少しでも日々の臨床の参考になれば幸いです。
まだ原文をみたことがない方は、以下にリンクを貼ってありますので、是非みてください。
Nutrition Therapy in the Patient with COVID-19 Disease Requiring ICU Care