呼吸音を聴診するコツ〜看護に必要なフィジカルアセスメント〜

呼吸音って難しくないですか?」

毎日患者さんのアセスメントで聴診はしていると思いますが、しっかり理解して聴けているでしょうか?

とりあえずルーチン作業のように、ラウンド行ったから聴いたりしていませんか?

実は私は、本質を理解しないで聴診していましたので、聴いていてもよくわからなかった覚えがあります。今思えば重要なサインを見逃していたかもしれません・・・

正直言って、10年以上経験を積んだ今でも難しいと思います。

けど、しっかり理論を理解して聴診ができると、アセスメントの幅が広がりますし、看護の質が格段に向上します!

少しでも参考になればと思いまして、まとめてみました。

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呼吸音聴取でできること

肺の状態を知る手段と言ったら、胸部レントゲン、胸部CT/MRIが検査としては多いですよね?

とても重要な評価ですが、全て撮影した「過去」の評価になります。

その点、呼吸音の聴診はまさに「リアルタイム」で評価できる看護技術です。患者さんの今を最も反映しています。

呼吸音を聴くことで

・しっかり空気が入っているか

・左右差はないか

・変な音は聞こえないか(異常呼吸音:後でご説明します)

・正確な呼吸数の把握

・呼吸音の聴診結果から、痰の貯溜部位の把握

など、様々な情報を得ることができ、呼吸状態のフィジカルアセスメントには欠かせません。

音の特徴を理解

ここで、いきなり呼吸音を学んで、呼吸音の違いなどから入ると挫折してしまいます。

私がそうだったんですが、種類も多いですし、正直聴診してもイマイチわかりにくい・・・

そんなとき、まずは音について理解したことで、日々の聴診が理解しやすくなったので、まとめて見ました。

音の特徴

・音は交わらない:聞き分けられるはず

・知らない音は後で思い出せない(聴いた後に調べても確認しにくい):異常呼吸音も事前学習が必要

・音の短期記憶は短い:左右さはすぐに聞かないと比べられない

ということです。

音は交わらないという性質があるので、しっかりとした聴診器を使用すれば聞こえてくるはずです。

けど、知らない音が多すぎて混乱してしまうだけなのです。ですので、後述する「聞こえる可能性のある音」を理解して、「呼吸音の種類」を覚えると、一気に聴こえやすくなります。

音の特徴を理解する例

ここで、一つ音の特徴について日常から実感できる例ですが、何か好きなバンドはいますか?シングル歌手でなくて、バンドだと理解しやすいのですが、そのバンドの歌を聞いてみてください。

私はミスチルが好きなので、ミスチルをよく聞きますが、一番耳に入るのは桜井さんの声(つまり歌声)です。だいたい歌を聞くときはそうですよね。

そこで、聞くときの意識を「ドラムの音を聞く」と意識して聞いてみてください。

ドラムの音をある程度わかっていれば、歌を聞いていたとき以上に「ドラムの音」が聞こえてきませんか?

それが、知っている音は聞き分けられるということなのです。

ですので、「聞こえる可能性のある音」を理解して、「呼吸音の種類」を覚えると、一気に聴こえやすくなります。

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聞こえる可能性のある音

呼吸音が難しい原因の一つが、呼吸音を聴取しているのに呼吸音以外の音が聞こえてきてしまうので、どれがどれだかわからなくなってしまうことです。

しかし、先程記載しましたが、ある程度音を知っていると聴き分けられるはずです。そのためにはどの音が聞こえてくるはずだと分かっていることが重要です。

そして、聞こえて欲しくない音はなるべく聞こえないような配慮が必要です。

以下に聞こえる可能性のある音を記入してしてみました。

聞こえる可能性のある音
  1. 正常呼吸音
  2. 呼吸音の減弱、消失、増強
  3. 異常呼吸音
  4. 心音
  5. 外(周り)の音
  6. 聴診器から手がずれる音
  7. チューブが動く音
  8. 衣服の摩擦
  9. 呼吸器回路内の水の動き

だいたいこのような感じです。「e〜i」の5つは、余計な音ですので、これは聞こえないように配慮ができます。

以外に厄介なのは、「dの心音」です。

呼吸音のトレーニングCDなど聞いたことはあるでしょうか?セミナーなどでもよく流れますよね。そこで聞くと、機械的に心音などは聞こえずに、純粋に呼吸音だけが聞こえるようになっています。

しかし、実際の患者さんは生きていますので、当然心臓も動いています。

聴取している部位によっては、心音が聞こえてきます。

心音と呼吸音が混ざるとよくわからないことが多いのです。

先ほどの「音の特徴」を思い出して欲しいのですが、音は交わらないですし、知っている音は聴き分けられます。

ここでは記載しませんが、心音の特徴を理解していれば、間違いなく心音と呼吸音を区別することもできます。

呼吸音を理解するためにも、心音を理解しているととても聴きやすくなります!

性能の良い聴診器を使おう!オススメの聴診器

いくら知識を身につけても、音の練習をしても、聴診する道具がないと聴診はできません。

聴診器は働き始めると皆さん持っていると思いますが、どれほどこだわっているでしょうか?

皆さんが疎かにしてしまうものですが、聴診器の性能によって、音の聞こえやすさは全然違います。

呼吸器内科医が使うような、とても高額で高性能の聴診器を持つ必要はありませんが、ある程度の質の高い聴診器がないとせっかくアセスメントしたくても十分にできません。

新人の看護師さんほどいい聴診器を持って欲しいほどです。

確かに、値段はそれなりにしますが、大事に使えば10年以上使えますし、仕事の質や満足度をあげる投資としては安いと思いますので、是非検討してみてください。

聴診器は様々あるので、どれを購入したらいいか迷うと思います。

ここでは私が使用したり、セミナーで紹介しているオススメの聴診器を2つご紹介しします。(臨床の現場でもこの2種類は多く使われていますね)

*成人の呼吸音を聴きやすい聴診器ですので、小児用などは別に探していただいた方がいいと思います。

①エントリーモデルには十分な聴診器

私も自分で初めて購入した聴診器はこれになります。

聴診器で有名なリットマン社製の「マスタークラシックⅡ」というモデルです。

②さらに質の高い聴診器でオススメのタイプ

ダブルピース構造といって、音がよりクリアに聞こえます。

こちらもリットマン社製の「マスターカーディオロジー」というモデルです。

この2つが、コメディカルでも購入しやすいオススメの聴診器です。

どちらもシングルタイプで、背部の聴診をするときも、患者さんとベッドの合間に滑り込みやすいようになっています。

ちなみに、様々な色がありますので、自分の好みに合わせると愛着がわきますよ!

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呼吸音の種類

「音の性質」を理解して、「聴診器」を手に入れて、これで呼吸音を理解できます。・・・けど、呼吸音といっても色々な音が聞こえるので、また難しいんですよね

正常呼吸音だって、聴く場所によって若干違います。

しかし、以下の7種類を理解していれば大抵はどうにかなります。

(むしろそれ以上にマイナーなことだと、私も説明できるほど理解できていません・・・)

個別で理解する前に図でイメージするとわかりやすいと思います。簡単ですが、図にしてみましたので参考にしてみてください。

それぞれの特徴について、細かく説明していきます。

正常呼吸音

正常な呼吸音でも、聴診している部位によって気道の空気の流れが違いますので、聞こえてくる音も違います。

「気管呼吸音」「気管支呼吸音(気管支肺胞音)」「肺胞呼吸音(肺胞音)」と分かれます。

それぞれ覚えるのではなく、いっぺんに覚えた方が楽ですので、表にしてみました。(小さくて見えにくかったらクリックして画像を拡大してください)

まずはこの音と聞こえ方の違いを理解しましょう!

一番勉強しやすいのは、健常人で、友人、自分でもいいので、これをイメージして聴診してみてください。

本来肺胞呼吸音が聞こえる場所で、気管支呼吸音が聞こえた場合は、肺胞が無気肺になっていて空気が入っていない(空気の流れる音がしない)

→その近くの気管支呼吸音が伝達して聴こえてくる(これを伝達音とも言います)

後述する異常呼吸音ではなくても、無気肺という病変を気づける可能性もあるので、正常呼吸音も3種類理解しましょう!

副雑音(異常呼吸音)

異常呼吸音は4つに分けられますが、下の図をイメージするとわかりやすいと思います。(図が下手ですみません)

ここで理解して欲しいのは、気道の狭さと気道内の異物で音が変わるのが、「rhonchi」「coarce crackles」「wheeze」ですが、「fine crackle」だけは肺胞の特殊な病変によって聴こえる音ですので、全く性質が違います。

この音の違いが理解できると、看護できることが変わりますので、是非覚えてください。

音は患者さんから聴かせてもらう以外には、練習では、書籍などについている音声データもオススメです。

いびき音(rhonchi)

・呼気で聴こえるが吸気でも聴こえる

・疾患:COPDの急性増悪、心不全などの喀痰貯留(大きな塊)時、気道異物など

・特徴:喀痰の場合は、咳をすると移動して音が変化する

笛音(wheeze)

・息を吐いて肺が狭くなった呼気終末に聴こえやすい

・疾患:気管支喘息発作などの閉塞性疾患

・特徴:強制呼出で増強する

水泡音(coarse crackle)

・呼気の初めから聴こえる

・疾患:肺炎、心不全、喀痰の貯留など

・特徴:喀痰の場合は、咳をすると移動して音が変化する

捻髪音(fine crackle)

・吸気終末に聴こえる

・疾患:間質性肺炎

・特徴:パリパリとした特徴的な音が聴こえる。痰の貯留ではないので、排痰アプローチは適応外

聴診している部位を理解しよう

呼吸音を理解したら、肺のどの部位で聴こえているかを意識しましょう。

その時聴診器を当てている部位の下ですので、大体の場所はわかると思いますが、肺は解剖学的に区域に分かれていますので、そこを意識してみましょう。

肺区域を意識する

肺区域(S:pulmonary segment)は頭文字のSを使用して、S3などと表現されます。

以下のように名前がありますので、覚えられたら番号だけでも(日本語はほとんど使わないので番号が重要です)覚えていきましょう。

*右肺(右主気管支)

*左肺(左主気管支)

看護記録への正確な書き方

看護記録では、「右肺に肺雑あり」など書いてあることはありませんか?

これは正確な表現ではありません。肺雑は正しい用語ではありませんし、異常呼吸音の種類もわかりません。そして右といっても、前なのか後ろなのかもわかりません。

例えば「右S10にcoarse crackleあり」と記載すれば、誰がみてもどこに何があるかしっかりわかります。しかもそこからアプローチにも繋がります。

これであれば、右の背中側に痰がありそうだ

→右の背中を上にして体位ドレナージを行おう

といったように、次のアプローチにも繋げることができます。

慣れないかもしれませんが、せっかくアセスメントした情報は共通言語で伝えると他の人にも理解してもらえます。

この記載方法に関しては、呼吸器内科医が何度も看護師に訴えかけていました。

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呼吸音の聴診にオススメの書籍

より理解を深めたい方は専門書籍で勉強することをオススメします。

様々な種類を読んできて、結局何回も見返すほどの参考書籍を2冊ご紹介します。

①「病気がみえる 呼吸器」

まずはこれがオススメです。

フィジカルアセスメントの本もいっぱいありますが、図や病気までわかりやすくまとまっている本はこれ以上のものを知りません。

人気の病気がみえるシリーズですが、本当によくまとまっていて、ある程度理解した上で確認する本には適切です。

②「フィジカルアセスメントガイドブック」

これはフィジカルアセスメントでも紹介した本ですが、絵の見易さは①に劣りますが、聴診の本質を理解するにはこちらの本がまとまっています。

まとめ

  • 呼吸音を聴取するには音の性質について意識すると分かりやすいです。
  • 聴診は技術だけでなく、聴診器によっても全然聴こえやすさが違います。ある程度良い聴診器を使いましょう。
  • 呼吸音には様々な分類がありますが、まとめて整理すると分かりやすいです。
  • 書籍を読むことで、図などからもイメージをつけやすいと思います。様々な本があるので、良質な本を探しましょう。

聴診は本当によく使う技術であり、とても重要な評価です。

しかし苦手意識が強いと、ただ聴いているだけで、適切な看護に活かせない可能性があります。

この記事が少しでも参考になれば幸いです。