【論文紹介】ショックを伴う人工呼吸器装着患者への早期栄養療法

早期からの栄養療法は当たり前に行われ、基本的には経腸栄養療法が主流となっています。

しかし、重症患者、特にショックを伴っている人工呼吸患者に足しての経腸栄養療法の是非ははっきりされていません。

今回は「ショック」を伴う「人工呼吸装着患者」への「早期経腸栄養 vs 早期静脈栄養」を検討した論文です。2018年にLansetに掲載された論文を簡単にまとめて紹介します。

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栄養療法の基礎/ガイドライン

栄養療法の基礎はJSPENの「静脈経腸栄養ガイドライン」にまとまっています。

<栄養療法の種類>

静脈栄養法(parenteral nutrition:PN)経腸栄養法(enteral nutrition:EN)があります。

<静脈栄養の実施方法>

末梢静脈内に栄養素を投与する末梢静脈栄養法(peripheral parenteral nutrition:PPN)と中心静脈内に栄養素を投与する中心静脈栄養法(total parenteral nutrition:TPN)があります。

<経腸栄養の実施方法>

経口的に摂取する方法と経管栄養法とがある。経管栄養法は、経鼻アクセス、消化管瘻アクセス(胃瘻、空腸瘻、PTEG)などを用いて経腸栄養剤を投与します。

<静脈栄養と経腸栄養はどう選択する?>

Answer:腸が機能している場合は、経腸栄養を選択することを基本とする→AⅡ

Answer:経腸栄養が不可能な場合や、経腸栄養のみでは必要な栄養量を投与できない場合には、静脈栄養の適応となる→AⅡ

このように、栄養療法の基本は経腸栄養が主流です。

経腸栄養には以下のようなメリットがあります。

経腸栄養の特徴

1:からだの消化・吸収能を利用する生理的な投与方法

2:高エネルギー投与が可能で、施行・維持管理が比較的用意

3:代謝上の合併症が少ない

4:腸管の機能を保ち、バクテリアルトランスロケーション(*)発生を抑制する。

5:経済的である

*バクテリアルトランスロケーション:長期間消化管を使用しないと、消化管の粘膜が萎縮し、消化管内の細菌あるいは細菌が作った毒素が血流に入り込むと考えられています。このような状態をバクテリアルトランスロケーションと呼ばれています。

 

重症患者への経腸栄養についてのガイドラインは以下のようになっています。

ASPEN2016

経口摂取困難な重症患者は、24-48時間以内の経腸栄養開始を推奨する(感染リスク低下、生命予後も改善)→very low

血管作動薬増量中や使用しても血行動態不安定時は、経腸栄養開始を控えることを推奨する→Expert consensus

Crit Care Med.2016 Feb;44(2):390-438

ESICM2017

成人重症患者に対して早期経腸栄養は早期静脈栄養または晩期経腸栄養より推奨される(感染リスク低下、生命予後は有意差なし)→Grade 2C

ショックが制御されておらず、血行動態および組織還流の目標に達していない場合は経腸栄養を遅らせることを推奨するが、血管作動薬使用しショックコントロール後は直ちに低容量経腸栄養開始を推奨する→Grade 2D

Intensive Care Med.2017 Mar;43(3):380-398

Enteral versus parenteral early nutrition in ventilated adults with shock: a randomised, controlled, multicentre, open-label, parallel-group study (NUTRIREA-2).

【論文紹介】

Enteral versus parenteral early nutrition in ventilated adults with shock: a randomised, controlled, multicentre, open-label, parallel-group study (NUTRIREA-2).

Lancet.2017 Nov 8. pii: S0140-6736(17)32146-3.PMID29128300

 

多施設(フランス44施設のICU)、RCT

PICO

P:ショックに対して血管作動薬を投与中の人工呼吸器装着(気管挿管)患者

I:早期経腸栄養(挿管/ICU入室から24時間以内、20-25kcal/kg/day)

C:早期静脈栄養(挿管/ICU入室から24時間以内、20-25kcal/kg/day)

O:28日死亡率

 

【結果】

2013-2015年:2410名がランダム化(経腸群1202名 vs 静脈群1208名)

年齢の中央値は66歳、ショックの原因は敗血症が6割、NAD投与量0.5γ

 

<主要評価項目>

28日死亡率には有意差はなし

 

<副次的評価項目>

90日・ICU・在院死亡率に有意差なし。ICU滞在期間・在院期間に有意差なし。

感染症の発生に有意差なし

経腸栄養群で消化管合併症が増加

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結論

ショックに対して血管収縮薬を投与されている人工呼吸中の患者において

①正常カロリーを目標とする早期経腸栄養は早期静脈栄養と比べて生存率において有意差はない

②正常カロリーを目標とする早期経腸栄養は、消化管合併症のリスクの増加と関連する可能性がある。

まとめ

今回の結果から、急性期の栄養療法の投与経路によっての予後は大きく変わらないことが示唆されています。

また、循環動態が安定するまではフルカロリーの経腸栄養は控えるというガイドライン(上記)の推奨の根拠となりそうですね。

ショックを離脱していない患者に対しては、少なくとも20〜25kcal/kg/dayという経腸栄養は控えた方がよさそうですね。

 

RCTで行なった多施設の大規模研究となります。Lancetに記載されている論文です。興味があれば是非以下の原著論文を確認してみてください。

Enteral versus parenteral early nutrition in ventilated adults with shock: a randomised, controlled, multicentre, open-label, parallel-group study (NUTRIREA-2).

Lancet.2017 Nov 8. pii: S0140-6736(17)32146-3.PMID29128300