「論文執筆はハードルが高い」「学会発表が限界」「研究者だけやること」
このように論文執筆に関しては敬遠してしまう方もいるかもしれません。
しかし、大学生でも大学院生でも、研究や論文執筆初心者でも、研究熟練者でも、論文執筆までの道のりは一緒で、「慣れているか慣れていないか」「方法を知っているか知らないか」で論文執筆までのハードルは大きく違います。
研究と論文執筆初心者であった私が初投稿時を振り返って、調べて実際に行ったことをご紹介し、初心者の方でも論文執筆までの道のりがわかるようにまとめてみました。
そして、無料で高機能な便利ツールである「Mendeley」「EZR」についてもご紹介します。
・初心者でも論文執筆までの道のりがイメージできる。
・論文執筆に便利な無料の論文管理ソフト「Mendeley」について簡単に使える
・研究で統計解析を行う場合に使用できる、無料の統計ソフト「EZR」について簡単に使える
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論文執筆の前提
論文執筆の意義
「論文執筆は臨床研究の最終作業である。論文の執筆をもって、研究が成功したといえる。」
この言葉は、公衆衛生の専門家で医師でもある森本先生の本の一説です。
実際に私が直接習って、アドバイスも受けたことがある先生で、当時学会発表(抄録やポスター等の作成のみ)しか行っていなかったときに出会って、論文執筆まで導いてくれた言葉でもあります。
卒業研究だろうが、修士論文だろうが、臨床研究だろうが、せっかく時間と費用を費やした研究です。
論文執筆して、論文になることでその内容な永久に保存されることになります。日本語論文(医療論文の場合)の場合は医中誌や英語論文であればPubmedなどにインデックスされ、常に日本中、世界中の研究者の目に触れることができます。
「どんな研究でも、少数例の観察研究であっても、きちんと科学的な手段で解析し、報告した論文は必ず誰かの参考になる」と森本先生もおっしゃっていて、まさにその通りだと思います。
もちろん、大学を卒業するためでも、修士をとるためでも、論文作成することの必要性は一緒です。
論文の構造
論文の構造はシンプルですが、実際にできていないことが多いようです。
以下の図に、正式な論文の構造と、典型的な悪い論文の構造を示します。
実際に自分で論文を執筆するときだけでなく、論文を読んでいるときもこのような構造を意識するといいかもしれません。
また、先ほどご紹介した森本先生の書籍では、論文で大切なことを「料理」に置き換えて説明していました。
料理: よい畑・漁場 → よい食材 → よい料理 →よい味付け・盛り付け
論文: よいデザイン → よいデータ →よい処理 →よい統計解析・執筆
つまり、論文執筆をいいものにするには、しっかりとした研究デザイン、データ収集、データ処理、統計解析など全ての工程が重要になってくるということです。
もちろん初心者に完璧な論文は難しいですが、このようなイメージをもって取り組むと、自分の計画にどこが足りていないのかわかりやすいと思います。
論文執筆はいつ始める?
論文執筆は研究が全て終わってから始めるものだと思っていませんか?(私がそうでした)
しかし、研究熟練者や先ほどの森本先生は
論文執筆は研究が始まった段階で書き始めてよい
と言っていますし、実践しているようです。
「研究が始まった段階で書き始めるのがよい」
JACCのDeMaria編集長
「研究が全部終わってから書こう」と考えていると、書くときに「あのデータがない」「あれはどうだったか忘れた」ということが起こりうるので、研究開始の段階で始めるのが効率的だそうです。
私は後ほど紹介する「研究計画書」の段階で執筆を始めました。研究計画書で「背景」「方法」「解析方法」を作成して提出しますので、そこをしっかり作っておけば、データが集まったら「結果」と「解釈」を書くだけでしたので、とても後半が楽に執筆できました。
また、学会発表が最大のチャンスと言われています。
学会発表には抄録を作成しますし、ポスターは口述発表でまとめると思いますので、同時に論文執筆をしていると発表も執筆も効率的に作成できると思います(モチベーションも高い時期ですしね)
また、学会発表時に論文が執筆できていると、他の研究者に真似をされたり、先に論文作成されることがありません。
先行者優位な世界ですので、あまりのんびりしていられませんからね。
論文執筆:研究開始からの流れ
論文執筆するには研究を行わなければなりません。
ここでは、研究開始から論文執筆までの簡単な流れを整理します。
1)研究テーマを漠然と検討(素朴な疑問から)
2)文献検索:先行研究を調べる
3)研究テーマを具体的に決定
4)研究計画書の作成:研究デザインの選択、方法の作成・・・論文執筆開始のチャンス①
5)倫理委員会へ提出
6)研究開始:データの収集
7)統計解析:データの解析
8)研究の解釈(考察)
9)学会発表・・・論文執筆開始のチャンス②
10)論文執筆完成
11)論文投稿
12)論文修正(査読後)
13)論文採択(accept)
こうやって並べると長い道のりですね・・・
最後の論文採択までは数ヶ月単位でかかる道のりではありますが、ひとつひとつ行っていけば初心者でも実践できますので(私がそうでした)、順を追って整理してみます。
ちなみに、研究熟練者は1)〜5)までを一気に終わらせて、データがある場合はすぐに統計解析もできるので、あっという間に10)論文完成までたどり着く人もいます。
自分が行いたい研究内容によってもデータの収集期間などでどうしても期間はばらつきますが、慣れるとそこまで全てに時間がかかるわけではありません。
1)研究テーマを漠然と検討(素朴な疑問から)
まずは漠然とでいいので研究テーマを考えないといけません。
初心者はここは本当に漠然とでいい気がします。2)文献検索で先行研究を調べているうちに、わかっていないこと、知りたいことがより整理されてきます。
まずは、興味がもてる内容で、臨床(卒業研究であれば学校で学んだことから)の素朴な疑問をみつけてみましょう。
実際は「素朴な疑問」を「クリニカルクエスチョン:clinical question」としてまとめていくと整理つけやすいです。(以下のサイトを参考にしてください)
クリニカルクエスチョン(CQ)とリサーチクエスチョン(RQ)
2)文献検索:先行研究を調べる
次に自分の素朴な疑問(クリニカルクエスチョン)に関する文献を調べます。
ここがかなり重要で、先行研究から「なにがわかっていて、何がわかっていないか」を調べ、自分の疑問をより明確にしていきます。
自分の研究テーマの希少性がわかりますし、先行研究に似たものがあっても相違点を探っていくことができます。
文献検索については以下のサイトも参考にしてください。
文献検索の基礎:一次資料〜二次資料、エビデンスレベルについて
ここで、漠然と文献を読んでも、「あの文献どこだっけ?」「なんかあんなこと書いてあったような」と、その時は覚えていてもいろいろ調べているうちに忘れてしまいます。
献検索でとても重要で、便利なツールに「論文管理ソフト」があります。
簡単に文献を集約でき、フォルダわけするなどして一覧できますので、研究に必須のツールといえます。
「論文管理ソフト」には有料〜無料の様々なソフトがありますが、私は無料で高機能な「Mendeley」といるソフトを使用しています。
とても便利ですので、後ほど「無料の便利ツール」で詳しくご紹介します。
3)研究テーマを具体的に決定
文献検索を行うと、「何がわかっていないか」がわかってきて、漠然としていた疑問から具体的な疑問にすることができます。
これが「リサーチクエスチョン(research question)」になります。
ここが研究の「目的」になる中心部分です。
先ほどのクリニカルクエスチョンとの違いを整理しておくとわかりやすいです。
クリニカルクエスチョン(CQ)とリサーチクエスチョン(RQ)
そして、このリサーチクエスチョンをより具体的に構造化すると研究計画が書きやすいです。この構造化を「PICO、PECO」などといいますので、以下のサイトを参考にしてください。
4)研究計画書の作成:研究デザインの選択、方法の作成
リサーチクエスチョンが決まったら、今度はその疑問を解決するための研究計画を練っていきます。
どのような研究方法を行うか、まずは研究デザインを決めないといけません。
研究デザインを決めて、「研究期間」「対象」「アウトカム指標」などなど方法を具体的に決めていきます。
ここまでの段階で「背景」「方法」がわかってきますので、「研究計画書」として論文執筆のように先行研究を記載しながらまとめていくと論文執筆が効率的になります。
ここが「論文執筆開始する1つめのチャンス」となってくる理由です。
ここで、研究計画書作成に便利なツールをご紹介します。
研究計画書で「背景」を簡単にまとめていきますが、その際に「引用文献」を記載すると思います。
先ほどご紹介した「論文管理ソフト:Mendeley」があると、「引用文献リスト」もワードなどで簡単に作れますので、とても便利です。
(ここも、後述する「無料の便利ツール」で詳しくご紹介します)
5)倫理委員会へ提出
研究計画書が作成できたら、倫理委員会の審査を受けます。
現在は、以前にもまして倫理的配慮の欠いた研究は受け入れられません。
論文は当然のこと、学会発表の抄録にも倫理的配慮に対する記載は必須になってきています。
医学系の論文では「ヘルシンギ宣言」「人を対象とする医学的研究に関する倫理指針」などを遵守していることを証明しないといけません。
病院や施設ごとに設置されていれば、そこの倫理委員会を通せば問題ありません。病院によっては、倫理委員会が厳しく、ここを通すことが一番のハードルになることもありますので(特に介入研究では)、しっかりとした「研究計画書」が必要になります。
*病院や施設に倫理委員会がない場合は、団体として審査を行ってくれるところがあります。ちなみに、理学療法士協会でも倫理審査を行ってくれます。
学会発表や論文投稿では、投稿先によって倫理的配慮への記載の規格が決まっていることがありますのでご確認ください。
6)研究開始:データの収集
前向き研究の場合は、倫理員会の審査を通ったら実際にデータ収集を開始します。
後ろ向き研究のように、既にあるデータの場合は、倫理委員会の審査を通す前にデータ収集を始めることはできますが、どちらにしろ倫理委員会は通さないといけないので早めに提出しましょう。
研究を行うとわかるのですが、後ろ向き研究では「実際に必要なデータが少ない」いわゆる欠損値が多くて、質の高い研究が行いにくいことが多いです。本当に日々のデータの重要性が実感できます。
私はしっかりと調査して、研究計画書を作成してから行う前向き研究(横断研究だとしても、研究計画書を作ってから評価していく)のほうがスムーズに質の高い研究が行いやすいと思います。
データの入力を行うときに自己流でエクセルなどに作成してしまうと、解析ソフトで統計解析を行うときに反映できなかったり、使いにくいデータベースができてしまいます。
実際にデータ収集を行う前に、後ほどの統計解析に適応したデータ入力が行えるように、データの入力方法は理解しておいたほうがいいです。
以下のサイトで、データの入力についても解説していますので、参考にしてください。
7)統計解析:データの解析
データが集まったらデータ解析として、ほとんどの場合は統計解析を行います。
実際は6)のデータ収集がとても時間がかかりますが、しっかりデータ収集されたデータベースができていると、統計解析はすぐに終わります。(本当に、これまでの時間が虚しいくらいに結果として出力されます)
もちろん、統計解析の手段がわからないとここでつまずいてしまいます。
研究計画書作成の時点で、研究デザインと同時に統計手法が決まっていることが理想です。
研究初心者の方が一番つまずくのは、統計解析ができないからではないでしょうか?
また統計解析がしたくても、専門のソフトがないと実践できません。
統計解析ソフトには、有料のSPSSやJMPなどがありますが、無料で使いやすいEZRというソフトもありますので、統計解析ソフトを持っていないかたでもすぐに実践できます。
医療統計には、高機能で無料のEZRはとてもオススメですので、使い方も含めて後でご紹介します。
統計解析ソフトに慣れていれば、統計解析は比較的短時間(1日でも)で終わります。
8)研究の解釈(考察)
データの解析が終わると、十分に考察して研究の解釈をまとめることになります。
論文執筆だけでなく、学会発表でも、実際に行った結果から研究の解釈を作成しないといけません。
当たり前のようですが、実際には、先行研究ばかりを引用した考察で文字数を占めている論文も多いです。(ここをちゃんとした論文の場合、査読者はみているようです)
背景とは違い、解釈は自分の研究結果から作成するように心がけましょう。
9)学会発表
今回は「論文執筆」の流れについてまとめていますが、研究結果を公表する手段としては「学会発表」も大きな舞台です。
論文執筆に学会発表が必須というわけではありませんが、せっかく時間をかけて行って研究ですので、学会で専門家たちの前で発表して、意見をもらうことも重要です。
学会発表前に論文執筆が完成していることもあるかもしれませんが、初心者の場合は、学会発表後に作成することも多いと思います。その際は学会での意見なども論文執筆の参考になるかもしれません。
この学会発表の準備(抄録提出や発表当時のポスター作成など)も論文執筆のチャンスになります。まとめて作成できるので、考察などにも矛盾がおきることもなく効率がいいです。
10)論文執筆完成
これまで論文執筆のチャンスを2回紹介しましたが(研究計画書作成、学会発表)、もちろん全て終わってからでも論文は執筆できます。
抄録と同様に、「はじめに・目的」「方法」「結果」「考察」「結論」と構成要素ごとに作成していきます。もちろん、図や表も必要になります。
このときには、どこの雑誌に投稿するかによって、規定がありますので、その規定に合わせていく必要があります。
自分が最も参考になった先行研究の論文を参考にすることもオススメですが、有名ジャーナルならともかく日本語論文などでは記事の構成も不十分な論文も多いです。
そのため、熟練者や先生にアドバイスをもらうことも重要です。
もちろん様々な書籍でポイントを学んでもいいとおもます。
私が読んだなかで、わかりやすくて参考になった書籍を以下にご紹介します。(先ほどの森本先生の書籍ですが)
*共著者の記載順番を迷うことがありますので、以下のサイトにまとめてみました。
11)論文投稿
投稿したい雑誌の決まりに沿って投稿します。共著者の直筆サインや利益相反の有無などが論文本文に加えて必要になってきます。
また、投稿規定に載っていなくても、編集者に向けて「カバーレター」を添えると丁寧です。
投稿する雑誌によって投稿方法は違いますので、しっかり確認して提出しましょう。
全文が英語論文であれば当たりまえですが、日本語論文でも雑誌によっては「英語での抄録」など、一部英語での記載がもとめられるものがあります。
そのように英語で記載していく場合は、「ネイティブな人にしっかり英語をみてもらった」という証明書(英文校正)が必要になると思います。
そのような証明書をもらうために、専門期間に提出(有料になります)して、修正してもらい、証明書をもらって、一緒に論文投稿をします。
*専門機関では、「editage」が有名です(私はここしか利用したことがありません)
↓こんな感じで証明書が発行されます。
12)論文修正(査読後)
論文を投稿すると、査読者2名程度(雑誌によります)が確認をしてくれて、査読結果がきます。
有無をいわさず「リジェクト(却下)」になることもありますし(英語論文では特に)、ほとんどは修正が求められます。
査読者からの意見をもとに、可能な限り修正し(修正できない場合はその理由を明記)、再度提出します。
雑誌や修正後の内容や査読者によりますが、1回の修正で終わる場合もあれば、数回かかる場合もあります。
*英語論文の有名雑誌では、「リジェクト」されることは珍しくなく、別の論文用に書き換えて提出して「アクセプト」を目指す研究者は多くいます。
初心者は日本語論文であったり、英語論文でも投稿しやすい雑誌を選ぶと思いますが、投稿雑誌の選定は、先輩や先生などに相談できるといいと思います。
13)論文採択(accept)
査読者からの修正もクリアすると、晴れて「アクセプト(論文採用)」されます。
長い道のりですが、ここまできてやっと論文が世の中にでることができます。
あとは雑誌が刊行されることを待ちましょう。
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無料の便利ツール
最後に論文執筆までの道のりで、初心者には特にオススメの無料の高機能ツールを2つご紹介します。
①論文管理ソフト:Mendeley
1つ目は、論文管理や執筆の際の引用文献リスト作成に重宝する「論文管理ソフト」のMendeleyです。
論文執筆に限らず、普段の論文管理にもたいへん便利ですし、一度論文管理ソフトを使用すると離せません。
有料で高機能な「 Endnote」などが有名ですが、初心者で無料から始めたい場合は、十分な機能がありますので、Mendeleyから使用していくことをオススメします。
Mendeleyのインストールや使い方については、詳しく以下のサイトにまとめていますので参考にしてください。
②統計ソフト:EZR
2つめが、統計解析ソフトの「EZR」です。
研究でデータ解析が行いたくても、専用ソフトがないと行えませんよね。
無料で、自分のパソコンに簡単にインストールできて、しかも英語論文執筆することも可能な信頼性が証明されているソフトが「EZR」になります。
私は、有料のSPSSやJMPも使ったことがありますが、有料のものに比べて若干みにくい印象もありますが、慣れてしまうと簡単ですし、なにより自分のパソコンで使用できるのはとても便利です。(SPSSなどは高すぎで購入せず、病院や大学のパソコンを使用する必要があったので)
EZRのインストール方法や使い方のまとめ(統計手法についても解説)を以下のサイトにまとめていますので、参考にしてみてください。
まとめ
今回は初心者の方でも論文執筆が行えるように、論文の構成や論文執筆の流れをまとめてみました。
慣れている熟練者は簡単そうに論文を書いていきますが、初心者はなにから行っていいのかわかりませんよね。
今回の流れをみていただくととイメージがつきやすいと思います。
また、論文執筆、研究に必要なツールとして、無料で使用できる「Mendeley」と「EZR」をご紹介しました。
ハード面がクリアされれば、どなたでも研究や論文執筆に立ち向かえると思いますので、是非参考にしてください。