心不全の診断や重症度を判定に有用な指標にBNP(B型ナトリウム利尿ペプチド)があります。
最近はBNPだけではなく、NT-proBNP(N末端プロBNP)という指標もBNPと同様に、心不全の判断や重症度の判定に利用されています。
「急性・慢性心不全診療ガイドライン:2017 」にもNT-proBNPが記載されるようになってきています。
「BNPと似ている名前だけど何が違うの?」
「数値の目安は?」
新しい指標は覚えるのが大変ですが、有用だからでてきているんですよね。
今回は、NT-proBNPについてBNPと比較しながら簡単にまとめてみました。
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BNP/NT-proBNPとは?
BNP/NT-proBNPは両者とも、心臓が分泌する循環調整ホルモンです。
心室に対する負荷に応じて、血中濃度が上昇します。
→心不全の病態把握に有用になります。(心負荷の程度を鋭敏に反映する生化学的マーカーになる)
BNPとNT-proBNPの違い
BNPとNT-proBNPは生成は同じBNP遺伝子に由来します。その後、生理的に非活性のNT-proBNPと生理活性を有するBNPに分断されます。
両者とも心筋から分泌されますが、検体の違いや基準値が違いますので、以下に簡単にまとめました。
NT-proBNPはBNPと違い、代謝経路が腎臓のみであることから、より腎機能低下による影響が受けやすいといわれています。
(糸球体濾過値の低下と共に上昇する)
→心腎関連マーカーとしても注目されている。
日本で主流に行われているBNP検査は、血漿を用いるため煩雑であり、分離前の時間や温度の影響を受けやすいことが報告されています。
一方、NT-proBNP検査は、「血清」で検査が可能であり、採血後の検体の安定性に優れ(半減期も長い)、生化学検査と同一の採血菅で依頼が可能などの運用面での有用性があります。
そのため、集団検診などにおける心不全マーカー導入に際して期待できる検査であるとも考えられているそうです。
*半減期・・・成分の血中濃度が半減するまでの時間(半減期が長いほうが運用面で取り扱いしやすい)
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臨床的に有用な指標
BNP/NT-proBNPは心室の負荷を反映し、有用な心不全のマーカーになります。
そのため、心不全の診断や重症度判定に利用されます。
以下に、BNP/NT-proBNPの数値のカットオフポイントと治療の目安を示します。
また、心不全の予後を反映することにも有用なBNP/NT-proBNPですが、入院患者の場合は、入院時よりも退院時のBNP/NT-proBNPが予後を反映するといわれています。
以下はNT-proBNPで示した臨床研究です。
上段が入院時で、下段が退院時で、NT-proBNP値は下段のほうが予後と反映することがわかります。
引用文献はこちら:Circulation.2004;110:2168-2174
BNP/NT-proBNPの注意点
BNPは個人差もあり、特に肥満があるとBNP濃度は上昇しにくく、心不全の程度を低く評価してしまう可能性もあるので、注意が必要です。
BNPの測定は簡便、迅速、安価であるが、BNPだけで心不全を判断せず、常に全身状態や他の検査も参考にすべきであると言われています。
NT-proBNPのデメリット
BNPと違い、NT-proBNP検査は、「血清」で検査が可能であり、採血後の検体の安定性に優れ(半減期も長い)、生化学検査と同一の採血菅で依頼が可能などの運用面での有用性があります。
しかし、デメリットとしては、
・日本の場合、BNPほど一般化されていない(測定していない病院も多い)
・BNPよりも腎機能の影響を受けやすい(メリットでは心腎連関のマーカーになり得るが)
・「心臓リハビリテーション」を行う際の、リハビリテーション処方を行うための慢性心不全の診断基準が「BNP80以上」と記載されているが、NT-proBNPでの基準が記載されいない。→厳密にはBNPを測定しないと診断できず、リハビリテーションを受けられない可能性がある。(別検査の心エコーやCPXの結果から診断することはできる)
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まとめ
- BNP/NT-proBNPが両方とも心不全の臨床的マーカーになり得て、とても重要な指標である。
- NT-proBNPは血清で検査が可能で、採決後の検体の安定性に優れているなど、BNPに比べてメリットも多い
- 基準値を参考にして、重症度や予後を判断することができる。
- 腎機能の影響や、高齢、肥満など、BNP/NT-proBNPの値には注意する点もあり、総合的な判断が必要である。
今回は心不全の臨床的マーカーとしてとても重要なBNP/NT-proBNPを両者の違いを踏まえてまとめました。
様々な論文にも使用されていますし、日々の臨床にも役立つ指標ですので参考にしていただけたら幸いです。
参考HP:日本心不全学会