(2020年5月5日)
2020年5月5日現在、COVID-19(コロナウイルス)による世界的な影響は終息せず、日本でも緊急事態宣言が発令されています。
医療崩壊が懸念されるなど、医療現場での緊張がさらに増している印象です。
そんななか、COVID-19に対する医療方針として、成人COVID-19症例に対するガイドラインが発表され、先日以下のサイトでご紹介させていただきました。
【COVID-19:論文・ガイドライン】SSS COVID-19
今回はこのガイドラインでも記載(Recommendation34)されていてた、COVID-19患者に対する腹臥位療法についてより詳しく解説していきたいと思います。
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目次
COVID-19患者への腹臥位療法の適応
腹臥位療法については、ARDSに対する治療手段の一種として確立されてきた方法になります。
肺疾患であればだれでも腹臥位療法を行えばいいわけではなく、短時間の酸素化改善だけでなく、予後が改善するとまで科学的根拠が示されている疾患は中等症〜重症のARDSになります。(例えば間質性肺炎急性増悪や心不全などに対しては腹臥位療法は逆効果とも言われています)
それではCOVID-19に対してはどうかというと、先ほどご紹介したSSSのガイドライン(以下のサイト)でもCOVID-19が中等症〜重症のARDS様になった場合に推奨されています。
【COVID-19:論文・ガイドライン】SSS COVID-19
また、先日ご紹介した、Gattinoni先生の提唱する「Phenotype H」に病態が変化した場合に、ARDS様になるため腹臥位療法が適応になってくる可能性があります。
言い換えると、「Phenotype L」のような病態の時は効果がないか、逆効果の可能性があります。
このPhenotypeについての考え方は以下のサイトにまとめましたので参考にしてください。
【 COVID-19論文】2つの異なる病態と対抗する呼吸器管理
つまり、COVID-19であれば誰でも腹臥位療法を推奨するわけではないが、ARDS様になった場合に効果が示される可能性が高いという見解になっています。
腹臥位療法参考論文・資料
RCTほどの精度の高い論文はCOVID-19では発表されていませんが(2020/5/5現在)、ARDSの腹臥位療法について重要な論分やガイドラインをご紹介します。
PROSEVA Study
まずは、ARDS患者への腹臥位療法を一躍有名にして、全世界でその治療法が行われるようになったきっかけの論文をご紹介します。
いわゆるPROSEVA Studyといわれる、NEJMに掲載された論文です。(以下にリンクを貼っています)
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1214103
重度のARDS(P/F ratio<150)に対して、16時間以上の腹臥位療法を行ったRCTになります。
このRCT論文でARDSの予後の改善が示され、より腹臥位療法が広まっていきました。
FICMの腹臥位ガイドライン
ARDSの腹臥位療法に関するガイドラインのようなもので、英国のFICMという団体が公示しています。
腹臥位療法の方法や準備、ECMO利用時の腹臥位療法まで示してくれていて、写真も多くてとても参考になります。
https://www.ficm.ac.uk/sites/default/files/prone_position_in_adult_critical_care_2019.pdf
COVID-19に対して腹臥位療法を取り入れた論文
実際にCOVID-19に対して腹臥位療法を取り入れた論文もありますのでご紹介します。
しかし、腹臥位療法単独で行った方法ではないので、腹臥位療法だけを推奨しているわけではありません。
より早期に感染が拡大した中国からの報告です。
https://annalsofintensivecare.springeropen.com/articles/10.1186/s13613-020-00650-2
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腹臥位療法実践動画紹介
腹臥位療法の実践方法は、動画でも紹介されていますのでご紹介します。
3学会合同 日本COVID-19対策ECMOnetより
COVID-19の世界的拡大に向けて、日本呼吸療法医学会、日本集中治療医学会、日本救急医学会の3学会合同 日本COVID-19対策ECMOnetから教育ビデオが無料で閲覧できるようになっています。
そのなかには「腹臥位療法」についての詳しい説明や実践方法が動画で確認できますので、参考になると思います。
http://square.umin.ac.jp/jrcm/news/news20200415.html
YouTubeより
YouTubeでも腹臥位療法の実践方法を確認することができます。
参考になる動画を2つご紹介します。
どちらも海外の動画ですが、様子はわかりやすいと思います。
実戦すると、心電図を背中側に変える、ラインを片側にまとめるなどのルート管理など、事前の準備が最も重要であった感じがしました。(実際に向けるのはあっという間です)
まとめ
COVID-19が猛威を振るうなか、特に重症化しているARDS様の状態には腹臥位療法の効果が期待されています。
しかし、腹臥位療法は動画をみたり、実際に行うとわかるのですが、マンパワーがとてもかかります。
今の医療資源が枯渇している状態で、腹臥位療法を行うために防護具を使用することについての是非もあると思います。
実際に日本の現場で腹臥位療法を行えている施設があるかはわかりませんが、医療資源の充実、医療体制の改善などにより、COVID-19に対する治療の精度が増してくると腹臥位療法の必要性も高くなるかもしれません。
今回お伝えしたことは、COVID-19だけでなく、本来適応にARDSに対する腹臥位療法を実践する際にも参考になると思います。
腹臥位療法に対して少しでも参考になれば幸いです。